日経ビジネス 早版
特集 金になる知財より
角川歴彦の憂鬱 無法の先の果実
笑うしかないほどの惨状
YouTube上の動画とその数 (角川G調べ、7月時点)
角川関連の違法な動画数 約15万点
角川関連の違法な動画の再生数 約1億件
「涼宮ハルヒの憂鬱」 3260万件
「らき☆すた」 1164万件
「まあ、尋常じゃないです。世界の“ディスカバリーチャンネル”ですら、関連
する動画へのアクセス数は6万件。なのに、角川グループは一億件だからね。
あまりにひどいから、もう怒りを通り越して、笑っちゃった。ここまでやられちゃ
うと、笑うしかないよ。」
歴彦を笑わせてしまうほどの惨状。ハルヒがテレビに顔を出したことが、そ
の発端だ。昨年4月~7月にかけて放映された「涼宮ハルヒの憂鬱」のアニメ
は、全国ネットでなく、スポンサー費用が安い全国11のUHF局などで放送さ
れた。放送日には最大6日のバラツキがあった。放送時期はちょうど日本で
YouTubeが話題になり始めたころ。そこで、いつしか放映が一番早い地域の
ファンが、番組を分割してYouTubeに丸ごと投稿するようになった。そこにア
クセスが集中し、YouTubeのサーバーをダウンさせてしまうほど、ハルヒ熱は
急速に高まった。そのうち、アニメのシーンをつないで編集したものや、外国語
字幕をつけたバージョンが投稿されるなど、YouTubeでのハルヒの扱いは無
法地帯の様相を呈していく。明らかな権利侵害。
だが、このとき、歴彦はまた別の憂鬱な思いに苛(さいな)まれていた。
「YouTubeで起きていることは、(仲間内で作品を改変して楽しむ)日本のコ
ミケ文化が、ネットの世界に広がったんだなと思ったの。ハルヒの絵を描いて
いるいとうのいぢ君もそうだけど、僕らはコミケの人たちを仲間にしてきた。つま
り、ネット版コミケであるYouTubeを認めないというのは、僕らの行き方を自ら
否定することになる。だから、認めてあげたいと思ったんですよ。でも、その思
いと、自分たちの権利が侵されていることのギャップの大きさに、これは困った
なと。」
社内からは、「法的措置も辞さない覚悟ですべての削除をYouTubeに要求
すべきだ」などの強硬な意見が今年に入り、飛び交うようになる。
歴彦は、権利者を守ろうとする社員を頼もしく思う一方で、YouTubeを認めた
いという気持ちに苦悩する。そして、現場を諭した。「丸ごと載せているもの以
外は、そう目くじらを立てなくてもいいじゃないか」。
確かに、YouTubeは、ハルヒのファン層拡大に一役買っている側面もあった。
ハルヒダンス、コスプレ・・・・。また、日本でしか放映してないが、世界30カ国
以上からハルヒダンスの投稿がある。この現象はYouTubeの影響力抜きには
語れない。ハルヒ関連の売り上げは総額80億円を超える。
角川とYouTubeの試み
「YouTubeを認めたい」。実は歴彦は決して表立っては言えない思いを今年
2月に来日したYouTubeの創業者に直接ぶつけていた。「著作権の問題さえ
クリアできれば、僕らはYouTubeを認める最初の日本企業になりたい」。
そしていま、歴彦が会長を務める、角川グループHDとYouTube、その親会
社のグーグルは、著作権の問題を解決するための新たな仕組みつくりを始め
ている。グーグルやYouTubeの窓口となっている角川デジックスの社長、福
田氏は言う。「実証実験は僕らがやろうとしていることのごく一部。ユーザーも
YouTubeも権利者も、みんながハッピーで納得できる仕組みを、僕らが意見
を出しながら作ろうとしている。でも、内容は言えない」。断片的な情報を集め
ると、角川Gは著作物の使用料が、権利者にきちんと還元される仕組みを提案
しているようだ。
しかし、タダになれたユーザーは、ネットでの商品購入などに本当にお金を
使うのか。角川書店社長の井上氏はこう話す。「YouTubeで作品に接触した
人の何割かは、確実にDVDなりの商品を買ってみようという気持ちになる。そ
して、実際にそう行動している。投稿する人も、作品を冒涜(ぼうとく)する意図
はなく、面白いものを人に見せたいという、純粋な欲求がベースのはず。僕ら
はそういう性善説に立っています」。井上氏は証拠として、米国の例を引き合
いに出す。今年5月、角川Gは、海外初となるハルヒのDVD第一巻を米国で
発売した。結果は6万枚の売り上げという、驚異的な数字となった(日本では、
DVD1万枚売れれば大ヒットといわれる)。しかも、米国では、小説もコミック
もテレビ放映もない。明らかにYouTube効果だ。
「もうYouTubeは世界の共通語なんだよね。でも、日本のコンテンツ産業は、
売れる環境ができているのに、売りに行ってない。怠慢ですよ。夜明け前が一
番暗いんだよ。今はアンシャンレジーム(旧体制)と、新しく変わらなきゃいけ
ないという勢力がぶつかっている。日本の不幸はアンシャンレジームの方が
力が強いところ。でも早晩、島国も新しい勢力を受け入れざるを得なくなる。夜
明けは近いと思いますよ。」
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メモ
転換社債 転換価額4760.2円 残額114億円 請求期間2009年6月4日
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